top of page

​黒髪と襟(全30首)

朝練に遅刻し昇降口で聴く合唱コンクールの課題曲

この胸は蕾たとえば下敷きを敷いたノートのような感触

​ガサッと落葉、の「ガサッと」を蛍光でなぞる君から借りた国語便覧

​透明人間(全30首)

​図書館の向かいのあの樹はハクモクレン 人が言うのをそっと覚える

春はまだ浅いあなたが足首をあたためるための湯舟のように

​ラーメンにれんげを押しつけて掬うスープかばんは抱えたまんま

​火葬では熱すぎる(全30首)

​青い目のまま老いてゆくそこだけがいつまでもいつまでも仔猫だ

ウェッジウッドのタオルの箱は青いから目の色に合う 遺体を入れる

​火葬では熱すぎるからこの猫はどうか特別ぬるい炎で

​しふくの時(全30首)

​※ZINEあり

​一行の誰もさわれぬ詩になって透明なまま駅に立ちたい

雌伏という言葉に抗わずにいればわたしに沿って道がうまれる

​肉体の輪郭をそっとかたくして肌以上鎧未満のなにか

私たちの草上の昼食(全30首)

​※ZINEあり

家庭には庭の一字が含まれて出口を塞ぐざくろの茂み

良い娘さんねと言われるたびに積む胸の岸辺のやわらかい石

​獣にはすべて名がありさきざきを拓く者らがあらわす図鑑

bottom of page