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ふれあえば肌に桜が芽吹くのでまだ対岸で君を見ている

愛されたことを確信してるから君はコロネをほどいて食べる

 

ヤクルトがあるよ飲みなよと言ったあの顔で棺に横たわる祖母

がんばってそんなに写真を撮らないで ことしの桜忘れてもいい

吸っていた蜜の名前をおしえあう ツツジ、サルビア 会えてよかった

歩道橋揺れてるねって笑いあい手をつなぐだけの夜だったこと

つまらないきみのいつもの冗談も口癖にして残しておくね

葬式の話をしつつコーヒーに入れる砂糖をわずかに増やす

傘を一部屋と数えてよいのならこの一部屋にふたりきり、今

春を選ぶように孤独を選んだの 詰将棋アプリをそっとひらく

そうおれは遠くで光るものが好き 生涯無縁の楽園が好き

苦しくはあるがいつでもポケットにコメダの豆菓子ほどのあかるさ

夢で見たルドンのすこし怖い絵の所蔵先などを調べる夜明け

つっかけと呼べば親しいビルケンで名残りのモッコウバラを見にゆく

自販機のヤクルトいつも売り切れて遠い他人のすこやかな腹

あの花が造花とわかるのがいやで俯き気味に過ぎるダイソー

コデマリの群れに分け入る夕まぐれ木の下闇であなたに会える

右手だけ弾けるんだってムーンリバー聴かせてくれたことありがとう

この先は灯台守の眠る部屋 無口な者がパンを届けよ

街は風呂とカレーのにおい おれはいま怪獣だから人間が好き

耐熱のガラスのように怒りたい煮えるはらわた透かして歩く

春は来る、あなたにも来る スーパーで菜花を選ぶゆびさきに来る

花束になれるでしょうか水を飲むだけでこんなに恥ずかしいのに

やがて逝くならばこの目をオパールに変えていつかのあなたを飾る

比喩ならば楡になりたい教室のまんなかに生えて邪魔になりたい

虎を撫でる気持ちでおれを撫でてみて おいでドウダンツツジの陰へ

ばらが咲くための場所だと知ってからわたしのあばら骨は庭である

怒りには限りなどなしペパーミント世の果てまでも繁殖をせよ

くれぐれも喩えてくれるな愛を種にエバーフレッシュの鉢を蹴飛ばし

自販機の「あったか~い」を数えつつここは底、日暮れのくるしさの

宝物だったらいいよ忘れてもオリーヴオイルのあかるさで待つ

雨の日の豊かな滅びを前にしてそれでも傘をほんとに持つの

鍵はここ そっとお帰り 人類はそれほどだけど人が好きだよ

イブはイブプロフェンのイブ(肋骨で生まれてやらぬ)水無しで飲む

アパートになるなら強気な名が欲しい アルカディアとか コーポアルカディア

人前で食事ができる同僚がセブンのドリアをあたためている

世界を問い世界に絡む蔦としてわたしの言葉をわたしは頼る

夢ならばあなたがりっぱな大人でもオオオニバスに乗せてあげたい

 

思いだせなくなるときがくるでしょう時計草はじめて見た場所も

墓っぽい場所なら心にもあって会いたいときに訪ねているよ

 

花でしか埋められぬ距離に猫がゆき猫への道にひな菊を敷く

​あの猫の呼吸が止んだ世に生きて代わりにならねど肺ふくらます

ピカソ展のすごい行列に並べば恥ずかしいほど生の実感

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